学習法
シャドーイングのやり方と効果は?SLA研究の根拠・教材選び・続け方を整理

結論:シャドーイングは「レベルを合わせた教材」+「段階的な手順」で効果が変わる
シャドーイングとは、聞こえてくる音声をほぼ同時に、影(シャドー)のように追いかけて声に出す練習法です。第二言語習得(SLA)研究では、特に英語力が初級〜中級の学習者において、音の聞き取り(音素知覚)や単語の認識といった「土台のリスニング力」を伸ばす効果を示す研究が複数あります。一方で、単に音声を流して真似するだけでは効果が出にくく、①自分のレベルに合った教材を選ぶこと、②リスニング→マンブリング→プロソディ・シャドーイング→コンテンツ・シャドーイングという段階を踏むことが、研究でも実践でも重視されています。「○ヶ月で必ず聞き取れるようになる」といった保証はできませんが、何がどこまで分かっていて、何がまだ分かっていないかを踏まえて取り組めば、遠回りを減らせます。
この記事のポイント
- シャドーイングは1950年代に同時通訳者の訓練法として始まり、1992年に日本の英語教育に導入された練習法(Hamada, 2019)。
- SLA研究者の門田修平氏は、シャドーイングの働きを「インプット効果・プラクティス効果・アウトプット効果・モニタリング効果」の4つに整理している(Kadota, 2019)。
- 2025年の実証研究(中国のEFL高校生30名・2ヶ月間)では、統計的に有意なリスニング力向上に加え、発音・語彙・イントネーションの改善も報告された(Mu & Wasuntarasophit, 2025)。
- 一方で2020年の脳画像研究では、シャドーイング訓練によるワーキングメモリ関連領域の脳活動の変化は確認されたが、その研究期間内では英語リスニング・リーディングのテストスコア自体は有意に向上しなかった(Takeuchi et al., 2020)。効果は一様・自動的ではない。
- 研究では、初級〜中級者は「音を聞き取る・単語を認識する」力の伸びが確認されやすい一方、上級者は発話・発音面での恩恵が中心という報告がある(Hamada, 2019;El Moussaoui, 2025)。
シャドーイングとは何か・なぜ英語教育に使われているのか
シャドーイングは、心理学者コリン・チェリーが1953年に行った聴覚実験(両耳分離聴取・カクテルパーティー効果の研究)に起源を持ち、その後1950年代に同時通訳者の訓練ドリルとして発展しました。同時通訳者は「一方の言語を聞きながら、もう一方の言語を話す」という負荷の高い処理を求められるため、まずは同じ言語を聞きながら追いかけて発話する「シャドーイング」で、聞く・話すを同時に行う処理耐性を鍛えます。この技術が1992年に日本の英語教育(EFL)へ、リスニング指導法として導入され、以後は日本を中心に東アジアで研究・実践が広がり、近年は国際的にも認知されるようになりました(Hamada, 2019)。
SLA研究が示す効果:何が分かっていて、何がまだ分かっていないか
理論的な枠組み:4つの働き
関西学院大学教授でSLA(第二言語習得)研究者の門田修平氏は、著書『Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition』の中で、シャドーイングが学習者に働きかける仕組みを次の4つに整理しています(Kadota, 2019)。
- インプット効果:音声を聞き取る力(リスニング力)そのものを鍛える
- プラクティス効果:聞いた音を口の中で保持し繰り返す「音韻ループ」を使い、新しい単語や表現の定着を助ける
- アウトプット効果:実際の発話に近いプロセスを疑似的に体験する
- モニタリング効果:自分の発音や聞き取りのズレに気づく、メタ認知的な監視力を養う
この4つの働きは複数のレビュー論文でも整理・引用されており(El Moussaoui, 2025)、シャドーイングが「聞く練習」であると同時に「発話・記憶・自己モニタリングの複合トレーニング」だと考えられている根拠になっています。
実証研究:効果が確認された例
2025年に発表された研究では、中国の高校生30名(EFL学習者)を対象に2ヶ月間シャドーイング指導を行い、対応のあるt検定でリスニング力の統計的に有意な向上が確認されました。あわせて実施したアンケート・学習ログの分析では、発音・語彙・イントネーションの改善、ワーキングメモリの向上、リスニング時の集中力向上、不安の軽減といった副次的な効果も報告されています。一方で、未知語の多さ・速い話速・複雑な文構造・反復練習特有の単調さといった課題も同時に報告されており、教材選びと練習設計の重要性が示唆されています(Mu & Wasuntarasophit, 2025)。
「必ず効果が出る」わけではない
2020年に発表された脳画像研究(日本の大学生・大学院生119名を対象)では、シャドーイング訓練後にワーキングメモリに関わる脳部位(小脳など)の構造・活動に変化が見られた一方、その研究期間内では英語のリスニング・リーディングのテストスコア自体は有意に向上しませんでした(Takeuchi et al., 2020)。シャドーイングは脳の処理メカニズムには働きかけても、テストの点数という形ですぐに結果が出るとは限りません。「○ヶ月で必ず聞き取れるようになる」といった断定はできず、個人差・練習の質・教材のレベル合わせによって結果は大きく変わります。
レベルによる効果の違い
複数のレビューでは、シャドーイングの恩恵は学習者のレベルによって異なる傾向が指摘されています。初級〜中級者では、連続した音声の中から単語を切り出す力や音素知覚など「土台となるリスニング力」の向上が比較的確認されやすい一方、上級者ではリスニング面の伸びは相対的に小さく、発音の明瞭さや流暢さといった発話面での効果が中心になるとされています。Hamada(2019)は、初級者はまず台本なしの通常シャドーイングでリスニング力を鍛え、発話(発音・流暢さ)を主目的にしたシャドーイングは中上級レベルに達してから取り組むことを勧めています(Hamada, 2019;El Moussaoui, 2025)。
教材の選び方:まずレベルを合わせる
研究・実践の両方で共通して強調されているのは、教材のレベルが合っていることです。目安は次の通りです。
- スクリプト(台本)を読めば、ほぼ辞書なしで意味が取れる教材を選ぶ。知らない単語だらけの教材は、音声面の練習をする前に語彙・文法の理解に処理能力を取られてしまいます。
- マンブリング(口の中でつぶやく程度の追いかけ発話)がぎりぎりできる速さ・長さを選ぶ。聞いた瞬間に置いていかれる教材は、レベルが合っていないサインです。
- 短い音声(1分前後)から始める。同じ素材を繰り返し使う前提の練習法なので、長い音声より短い音声を繰り返す方が段階を進めやすいとされています。
- 未知語が多く「教材選びの段階でつまずいている」場合は、eigo-benkyo-hajimekataで触れているレベル診断から見直すのも近道です。
正しいやり方:6つの段階を踏む
シャドーイングを紹介する教材・専門家の解説でよく使われる段階分けが、以下の6ステップです(シャドーイングの方法, コスモピア)。いきなり「聞きながら話す」段階に飛びつくと挫折しやすいため、順番を守ることが重要です。
- リスニング:まずスクリプトなしで音声を聞き、話者や話の種類など全体像をつかむ。
- マンブリング:音声を聞きながら、口の中で小さくつぶやくように追いかける。声を大きく出す必要はなく、口の動きを最小限にした導入練習。
- テキスト確認:聞き取れなかった単語や意味が分からない箇所を、スクリプトや日本語訳で確認する。
- シンクロ・リーディング:音声を聞きながらスクリプトを声に出して読む(パラレルリーディング)。リズムとイントネーションの習得に重点を置く。
- プロソディ・シャドーイング:スクリプトを見ずに、音声のリズム・抑揚をできるだけ正確に再現することに意識を向けて追いかける。
- コンテンツ・シャドーイング:音がある程度取れるようになったら、発音の再現だけでなく「意味」を意識しながらシャドーイングする、最終段階。
この順番の意図は、「音を正確に真似る」処理と「意味を理解する」処理を同時にやろうとして負荷オーバーにならないよう、段階的に負荷を上げていくことにあります。
続けるための計画:頻度・記録・停滞したときの調整
研究では、シャドーイングに最適な練習時間・頻度は現時点でまだ確立されていません(Hamada, 2019は、これを今後の研究課題の一つに挙げています)。そのため「1日◯分やれば必ず伸びる」と断定はできませんが、実践面で押さえておきたい調整のポイントは次の通りです。
- 長時間・低頻度より、短時間・高頻度を優先する。音韻ループを鍛える練習という性質上、間隔をあけすぎると前回の感覚を忘れやすくなります。単語の間隔反復(スペーシング)と同様、忘れる前に触れる頻度を確保する考え方はeitango-oboekata-kotsuの間隔反復の話とも共通します。
- 同じ音声を繰り返す。1回で完璧に追いかけられる音声はほぼありません。同じ短い音声を数日〜1週間ほど繰り返し、マンブリング→プロソディ→コンテンツと段階を上げていく方が、新しい音声に次々手を出すより定着しやすいとされています。
- 停滞したら教材のレベルを疑う。マンブリング段階で毎回置いていかれる場合は、レベルが合っていないサインです。教材を1段階易しくする・音声を短くするなど、負荷を調整してください。
- 記録を取る。使った音声・つまずいた箇所・その日の感覚を簡単にメモしておくと、伸びているかどうかを実感しやすくなります(Mu & Wasuntarasophit, 2025の研究でも学習ログが集中力・不安の変化を捉える手段として使われています)。
次のステップ:リスニング力を得点や海外挑戦にどうつなげるか
シャドーイングで鍛えた「聞き取る力」は、TOEIC等のリスニングセクションのスコアに直結する土台でもあります。目標スコアから逆算した勉強法はtoeic-800-benkyohoで解説しています。また、聞き取り・発話の力は面接や実務でのやり取りにもそのまま生きてきます。外資系企業への転職でどの程度の英語力が求められるかはgaishikei-tenshoku-eigoryokuを参照してください。
よくある質問
Q. シャドーイングは英語初心者でもできますか? A. できますが、いきなり「聞きながら話す」段階に挑戦すると挫折しやすいです。Hamada(2019)は、初級者はまず台本なしの通常シャドーイングでリスニング力を鍛えることを勧めており、発話(発音・流暢さ)を目的にしたシャドーイングは中上級レベルに達してから取り組むのが効果的だとしています。教材のレベルを1段階易しくする・マンブリング段階を長めに取るなどの調整が有効です。
Q. スクリプト(台本)を見ながらやるべきですか?見ないでやるべきですか? A. 両方使います。上記の6段階のうち、リスニング・マンブリング・プロソディ・シャドーイングはスクリプトなしで行い、テキスト確認とシンクロ・リーディングの段階でスクリプトを使って内容と音を一致させます。台本ありのシャドーイングは、聞き慣れないアクセントに慣れる目的にも向いているとされています。
Q. どのくらい続ければ効果を感じられますか? A. 研究では明確な最適期間はまだ確立されていません。Mu & Wasuntarasophit(2025)の研究では、2ヶ月間の継続で統計的に有意なリスニング力の向上が確認された例がありますが、これは1つの研究の結果であり、個人差や練習の質・頻度によって結果は変わります。「○ヶ月で必ず話せる」といった保証はできない前提で、無理のない頻度で続けることが大切です。
出典
- Hamada, Y. (2019). "Shadowing: What is It? How to Use It. Where Will It Go?" RELC Journal, 50(3). https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0033688218771380
- Kadota, S. (2019). Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition: Connecting Inputs and Outputs. Routledge. https://www.routledge.com/Shadowing-as-a-Practice-in-Second-Language-Acquisition-Connecting-Inputs-and-Outputs/Kadota/p/book/9781032092836
- El Moussaoui, M. (2025). "Shadowing for Developing EFL Learners' Bottom-up Listening Skills: A Systematic Review." International Journal of Language and Literary Studies, 7(4). https://ijlls.org/index.php/ijlls/article/view/2260
- Mu, Y. & Wasuntarasophit, S. (2025). "Effects of the Shadowing Technique on English Listening Comprehension for Chinese EFL Senior High School Students." LEARN Journal, 18(2), 130–157. https://so04.tci-thaijo.org/index.php/LEARN/article/view/282291
- Takeuchi, H. et al. (2020). "Effects of training of shadowing and reading aloud of second language on working memory and neural systems." Brain Imaging and Behavior. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8286220/
- 「シャドーイングの方法」多聴多読マガジン, コスモピア. https://www.cosmopier.com/eio/shadow.html
Sources
- Shadowing: What is It? How to Use It. Where Will It Go? — Hamada, Y. (2019), RELC Journal 50(3)
- Shadowing as a Practice in Second Language Acquisition: Connecting Inputs and Outputs — Kadota, S. (2019), Routledge
- Shadowing for Developing EFL Learners' Bottom-up Listening Skills: A Systematic Review — El Moussaoui, M. (2025), IJLLS 7(4)
- Effects of the Shadowing Technique on English Listening Comprehension for Chinese EFL Senior High School Students — Mu, Y. & Wasuntarasophit, S. (2025), LEARN Journal 18(2)
- Effects of training of shadowing and reading aloud of second language on working memory and neural systems — Takeuchi, H. et al. (2020), Brain Imaging and Behavior
- シャドーイングの方法 — 多聴多読マガジン, コスモピア
FAQ
- シャドーイングは英語初心者でもできますか?
- できますが、いきなり「聞きながら話す」段階に挑戦すると挫折しやすいです。Hamada(2019)は、初級者はまず台本なしの通常シャドーイングでリスニング力を鍛えることを勧めており、発話(発音・流暢さ)を目的にしたシャドーイングは中上級レベルに達してから取り組むのが効果的だとしています。教材のレベルを1段階易しくする・マンブリング段階を長めに取るなどの調整が有効です。
- スクリプト(台本)を見ながらやるべきですか?見ないでやるべきですか?
- 両方使います。リスニング・マンブリング・プロソディ・シャドーイングはスクリプトなしで行い、テキスト確認とシンクロ・リーディングの段階でスクリプトを使って内容と音を一致させます。台本ありのシャドーイングは、聞き慣れないアクセントに慣れる目的にも向いているとされています。
- どのくらい続ければ効果を感じられますか?
- 研究では明確な最適期間はまだ確立されていません。Mu & Wasuntarasophit(2025)の研究では、2ヶ月間の継続で統計的に有意なリスニング力の向上が確認された例がありますが、これは1つの研究の結果であり、個人差や練習の質・頻度によって結果は変わります。「○ヶ月で必ず話せる」といった保証はできない前提で、無理のない頻度で続けることが大切です。
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