文化

スペインと中南米のスペイン語の違い|vosotros・seseo・cogerの注意点

スペイン語圏の標準を定める機関、インスティトゥト・セルバンテスの本部(マドリード)
Javier Perez Montes (Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0)

結論

スペイン本国と中南米のスペイン語は、同じ言語でありながら4つの点で明確に分かれる。①「あなたたち」の言い方——スペインは vosotros(カジュアル)と ustedes(フォーマル)を使い分けるが、中南米は ustedes 1つに統一されている。②「きみ」の言い方——スペインは tú が基本だが、アルゼンチン・ウルグアイを中心に中米の複数国でも vos(voseo)が使われる。③発音——中南米全域とスペイン南部の一部は seseo(c・z・sをすべて[s]で発音)、スペイン中北部の大部分は distinción(区別する)が標準。④語彙——coger のように、スペインでは中立な「取る」という意味の単語が、メキシコなど複数の中南米諸国では下品な性的表現になるなど、同じ単語でも意味がずれる例がある。

「あなたたち」の言い方が変わる:vosotros と ustedes

もっとも分かりやすい違いが、複数の相手への「あなたたち」の言い方だ。

使う地域形式動詞の活用例(hablar)ニュアンス
スペインvosotrosvosotros habláisカジュアル(親しい相手・複数)
スペインustedesustedes hablanフォーマル(目上・複数)
中南米全域ustedesustedes hablanフォーマル・カジュアルの両方を兼ねる

スペインではカジュアルな vosotros とフォーマルな ustedes の2系統を使い分けるのに対し、中南米では vosotros がほぼ使われず、ustedes 1系統でフォーマル・カジュアルの両方をまかなう。ustedes の活用は文法上 ellos(彼ら)と同じ三人称複数の形になる点も覚えておきたい。挨拶の場面での具体的な使い分けはスペイン語の挨拶・自己紹介フレーズ31選でも扱っている。

「きみ」の言い方が変わる:tú と vos

単数の「きみ」にあたる言い方も割れる。スペインおよび中南米の多く(メキシコ、カリブ海諸国、アンデス諸国の多くなど)では tú が標準的だが、アルゼンチン・ウルグアイではほぼ全面的に vos(voseo)が使われ、tú はほとんど登場しない。さらに中米(ニカラグア・コスタリカ・エルサルバドル・グアテマラ・ホンジュラスなど)でも vos は広く使われており、「voseoは一部地域だけの特殊な現象」というより「中南米のかなり広い範囲で生きている用法」と捉えた方が実態に近い。

voseoでは動詞の活用も tú とは異なる形になる(例:tú tienes → vos tenés)。この活用ルールの詳細と、アルゼンチンでの実際の使われ方はアルゼンチンの文化とスペイン語の特徴で掘り下げている。中南米の国ごとの違いをさらに広く比較したい場合は中南米スペイン語の方言比較もあわせて確認したい。

発音の違い:セセオとディスティンシオン

c(e/iの前)・z・s の発音も、スペインと中南米で分かれる。

発音パターン内容主な地域
distinción(区別)c/zを英語thのような音、sを[s]で区別して発音スペイン中北部の大部分(標準的なスペイン本国の発音)
seseo(セセオ)c/z/sをすべて[s]で発音中南米全域+スペイン南部の一部(セビージャなど)
ceceo(セセオとは別の現象)逆にc/z/sをすべてthに近い音で発音スペイン南部の一部(カディスなど、アンダルシア地方限定)

中南米で学んだ発音は、そのままスペイン中北部で聞く発音とは異なる、という前提を持っておくと戸惑いが減る。逆にスペイン南部(アンダルシア)の一部では中南米と同じセセオが使われているなど、「スペイン=distinción」と単純に割り切れない地域差がある点も面白いところだ。

知っておきたい語彙の注意:coger の罠

語彙の違いの中でも、実用上とりわけ注意したいのが coger という動詞だ。スペインでは「取る・つかむ・(バスなどに)乗る」という意味で日常的かつ中立的に使われ、coger el autobús(バスに乗る)のように何の問題もなく使える。

ところが、メキシコをはじめとする複数の中南米諸国では、coger は下品な性的表現として受け取られる。RAE(レアル・アカデミア・エスパニョーラ)自身の辞書でも、この語義は「malson. Am.(中南米での下品な用法)」として明記されている。中南米、特にメキシコで学習・生活する予定があるなら、「取る」の意味では coger の代わりに tomar や agarrar を使う方が無難だ。なお、アルゼンチン・ウルグアイ・パラグアイでは文脈によって中立的な意味と性的な意味の両方が使われることがあり、地域差がある点も覚えておきたい。

cogerは相手や地域によって意味が変わる

スペインでは何の問題もない日常語だが、メキシコなど複数の中南米諸国では避けた方がよい単語になる。「取る」と言いたいときは tomar / agarrar を使う方が、地域を問わず安全。

語彙ペアの早見表

文法以外にも、日常語彙のレベルでスペインと中南米が分かれる代表例をまとめておく。

意味スペイン中南米(代表例)
じゃがいもpatatapapa
cochecarro(メキシコ・コロンビアなど)/auto(アルゼンチン)
携帯電話móvilcelular
パソコンordenadorcomputadora/computador(国により異なる)
ストローpajitapopote(メキシコ)など、国ごとに多様(詳細は中南米スペイン語の方言比較

どちらを学ぶべきか

「スペインのスペイン語」と「中南米のスペイン語」のどちらが正しい、という優劣はない。旅行や留学、仕事で関わる地域に合わせて使う語彙・活用を選べば十分で、両方の違いを知っていること自体が、スペイン語という1つの言語が持つ広がりを楽しむ扉になる。スペイン旅行を予定しているならスペイン旅行で使えるスペイン語フレーズ51選を、中南米(メキシコ)を予定しているならメキシコ旅行で使えるスペイン語フレーズ28選を、渡航前のフレーズ確認に役立ててほしい。

よくある質問

Q. vosotrosを知らないと中南米で困りますか? A. 中南米ではvosotrosがほぼ使われないため、実際に困る場面は少ない。ただしスペイン本国のニュースや映画・書籍に触れる機会があるなら、聞いて理解できるようにしておくと安心。

Q. cogerはどの国でも避けるべき単語ですか? A. スペインでは問題なく使える中立語。ただしメキシコなど複数の中南米諸国では下品な意味に取られるため、その地域では tomar や agarrar に置き換える方が無難。

Q. 旅行ではスペインと中南米、どちらのスペイン語を優先して覚えるべきですか? A. 実際に訪れる国に合わせるのが基本。スペイン旅行ならvosotrosの活用と発音のdistinción、中南米ならustedesとseseoを軸に、渡航先別のフレーズ集で慣れておくと現地でのギャップが小さくなる。

出典

Sources

  1. RAE — Diccionario de la lengua española「coger」
  2. ponlesubtitulos — Which countries use "coger" with sexual connotations?
  3. Elon.io — Vosotros vs Ustedes
  4. Elon.io — Voseo: Where Vos Is Used
  5. OpenSIUC (Southern Illinois University) — Desarrollo y uso del voseo en Centroamérica
  6. Wikipedia — Andalusian Spanish

FAQ

vosotrosを知らないと中南米で困りますか?
中南米ではvosotrosがほぼ使われないため、実際に困る場面は少ない。ただしスペイン本国のニュースや映画・書籍に触れる機会があるなら、聞いて理解できるようにしておくと安心。
cogerはどの国でも避けるべき単語ですか?
スペインでは問題なく使える中立語。ただしメキシコなど複数の中南米諸国では下品な意味に取られるため、その地域では tomar や agarrar に置き換える方が無難。
旅行ではスペインと中南米、どちらのスペイン語を優先して覚えるべきですか?
実際に訪れる国に合わせるのが基本。スペイン旅行ならvosotrosの活用と発音のdistinción、中南米ならustedesとseseoを軸に、渡航先別のフレーズ集で慣れておくと現地でのギャップが小さくなる。
TOBIRA編集部
  • DELE/SIELE指導経験
  • 中南米留学サポート経験
  • 第二言語習得論(SLA)にもとづく編集方針

DELE/SIELE対策とスペイン語圏留学の一次情報にこだわり、第二言語習得論(SLA)にもとづく学習設計を行う編集部。

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